嘘のような本当の話、のようですよ(続報)

1年半くらい前(2022年春頃)に初めて「レッドライトセラピー(治療法)」という、近視予防治療を耳にして、1年くらい前にブログに書きました。レッドライトセラピーというのは、1回3分、1日2回 650nm の波長の赤色の光をのぞきこむだけで近視進行を90%くらい予防するという、本当であれば、驚異的な近視予防効果のある治療法です。

東京医科歯科大学のホームページにレッドライトセラピーについて書いてあるページがありました。レッドライトセラピーの様子も動画でアップされていました。↓

https://myopia-center.com/suppression.html

オルソケラトロジーの抑制効果が40%〜60%くらいとされているので、ざっくり、レッドライトセラピーはオルソケラトロジーの倍くらいの近視進行抑制効果があるということになり、他の近視進行抑制治療に比べて圧倒的な効果があるということになります。

なんで日本に入っていないのかわかりません(東京医科歯科大学以外で治療しているところを聞いたことがありません)が、中国を中心に世界30カ国以上で医療機器として認可されていて、すでに15万人以上の小児に使用されているらしいです。何でもかんでも安全性を無視して取り入れれば良いかというと、決してそういうものではありませんが、有望そうな治療にはチャレンジできる環境が、他国に近いスピード感で作られれば良いなとは思います。日本人はリスクを取らない国民性ですから、ドラッグラグの問題などもあるわけです。日本は近視予防においても後進国だそうです。

さて、レッドライトセラピーに関して、一番気になるところは、「効くのか?」とということと同時に、「安全なのか?」というところだと思います。近視が出てくる小学生に行うわけですので、将来何も起きないか、長期予後が心配なところです。「今のところ安全ですよ。合併症で黄斑部に一時的なダメージが出た子供は10万人中7人ですよ、しかもみんな回復していますよ。この7人もレッドライトセラピーとは関係ないかもしれせん。」ということになっているようですが、長期予後は誰もわからないわけです。

個人的には、この程度の低い確率の合併症で、本当に90%の近視抑制効果があるなら、めちゃくちゃいい治療だと思います。「近視が進まないために毎日2時間、昼間、外で過ごしましょう。」と私も近視の子供に言っていますが、屋外には「熊の出没、交通事故、紫外線による発癌リスク」が当たり前にあるわけで、これらのリスクは一万分の1以上くらいはあるんではなかろうかと思います。安全な室内で短時間、ゆるい赤色の光を見るだけで近視が進行しなくなるなら「こんなにいい話はない」と思います。治療中の赤色光を覗き込んでいる様子が、大衆雑誌の広告などで目にする「視力が回復した!」とする治療機器を連想してしまいますが・・・

ところで、上記のレッドライトセラピーとはまた、別の治療機器と思われますが、IPLによるドライアイ治療の第一人者であるアメリカのToyos先生 は自宅でできる レッドライト によるドライアイ治療機器を販売しているようです(2017年の論文でその後の続報は見つからなかったのでドライアイ治療としては少なくとも今は主流とは言えないと、個人的には思います)。↓

https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2639892zp

さて、近視を抑えるのは、太陽光の中に含まれる紫色という説もあります。波長で言うと赤と反対側なのに・・・・  で、バイオレット光を出す近視抑制メガネを慶應大学医学部発のベンチャー、坪田ラボが2024年の販売を目指している、と2021年の日経の記事がありました。バイオレット光の波長は360〜400nmと、赤色光に比べ波長が短い。可視光の中の超波長と短波長の両端で近視抑制を試みる治療が行われているなんて、近視予防のメカニズムはよくわかりません。蛇足ですが、紫光は紫外線のすぐお隣なので、紫外線による目の日焼け(電気性眼炎・ゆきめ)にならないかちょっと心配です。バイオレット光による近視抑制メガネは太陽光に含まれる程度の安全な量の紫光を発するようです。

近視治療で50%の近視抑制効果があるとされる特殊メガネ、DIMSレンズに関しては、レッドライトセラピーほどの恐怖心なく取り組むことができそうなものなのに、それなりにアンテナは張っているつもりですが、「処方してみたよ、マジで効くよ!」みたいな話は残念ながら私の周りの眼科医からは聞いたことがありません。知っている眼鏡屋さん全員聞いてみても、2年くらい前、誰もDISMレンズの情報持っていませんでした。これもなんでかわかりません(「メガネの〇〇」の海外店舗では普通に売ってますよ」みたいな回答を期待していたのに・・)。日本のHOYA社が開発したというのに、HOYAの人に聞いても、ほぼ情報がない状態でした(2年くらい前)。ネットで検索しても2023年のDIMSレンズレンズの新しい話題はヒットしませんでした。一体どうなっているのか・・・本当に海外では普及しているのか・・・。英文の2023年の報告がありました。6年間子供にDIMSレンズをかけさせたり、普通の眼鏡をかけさせたりして、近視の進行の様子を見てました。(日本は自国で開発されたレンズですら、6年以上香港に比べて普及が遅れているのか・・・・何が障壁なのだろう??と率直に思いました。)さて、この報告は症例数は少なめです。香港での報告です。グラフを見た感じでは、普通の眼鏡からDIMSレンズに変えてから半年以降はほぼ近視が進行しなくなったように見えます。本当なら、スゴイです。

マニアックな話ですが、私は軸外収差理論を信じています。近視になってメガネをかけると周辺部網膜の遠視性デフォーカスを生じて、近視進行に拍車がかかるのです。近視は進み始めると、より進行しやすくなるのです。DIMSレンズはこの悪循環をカットすると思われます(近視がまあまあ止まる、だけで、治るわけではありません)。「(近視の)メガネをかけると近視が進むの?」と聞かれると、私は「強すぎるメガネでなければかけて問題ありません。」と回答していました。遠くない将来は「確かに近視になってメガネをかけると、さらに近視が進みやすくなります。これ以上近視が進むのを防ぐためにはDIMSレンズのメガネにするのが良いと思いますよ。普通のメガネの方がクリアに見えて安いのに比べて、DIMSレンズは高い割にモヤっと見えづらいのでかけられなくなってしまう子供もいますが。」と回答する日が来るのでしょうか。DIMSレンズは日本では何処にも売っていないし、私も見たことありませんが・・・

スマホの普及で赤ちゃんの時から何時間もデジタルデバイスを見てしまう環境になってしまったことで、今後、さらに近視の低年齢化が進行してしまうことを、世界中の眼科医が心配しています。騒いている子供におとなしくしてもらうためにYouTube動画を流して「ちょっといい子にしててね」ということは親なら絶対にやりたくなってしまうと思いますが、WHOは、「3歳まで一切、スマホとかテレビとか見せない方がいい」と言っています。当たり前ですよね。わかっているんですけどね。せっかく遠くがよく見える目なのに、小学校に入る前の小さい子供が近眼になってしまうのは、いたたまれないですよね。絶対これからを生きてゆく上で、スマホを使いこなすことは必須ですし、遊びだけでなく、勉強にも使われていますから、害がなければ上手に使わせたいですよね。「できればスマホを好きなだけみさせても、近視にならないようにしたい」と当然考えますよね。「好きなものを好きなだけ食べても太らないようにしたい」と思うように。

サプリメントで近視が予防できればいいな、と考えるところに関しては、スワンではクロセチンというクチナシ由来のポリフェノールのサプリメントを販売しています。もちろん、ちゃんとした大学のちゃんとした先生の研究に基づいて、大手メーカーから発売されているもので、6ヶ月で20%の近視抑制効果があったとされています。木村も信じています。動物実験では80%くらい抑えるっていう話だったかと思います。しかし、最近聞いた近視予防関連のセミナーでは残念ながら取り上げられていませんでした。

現時点では木村の脳内では近視進行抑制のために有効な方法は  文明から離れる > レッドライトセラピー?? > オルソケラトロジー(確信)、DIMSレンズ?? > バイオレット光眼鏡? > 低濃度アトロピン点眼(濃いほど効くらしいが加減が難しい、近視になってからでは効果が弱い)、クロセチンのサプリメント、近視抑制のコンタクトレンズ  という、主観的な評価です。

オルソケラトロジーによる近視抑制効果は、実際に処方した経験からも「確実に近視抑制に効果ある」と言えます。ただし、突然、強いアレルギー反応と思われる角結膜炎が生じてしまった小児を経験しており、どうやら同じ経験をしている先生は少なくないようです。経験的には子供ほど、無症状でも、きちんと定期通院してもらうことが最重要なのですが、保護者も忙しいですし、行ける時間に眼科がやっていなかったり、予約が取れなかったり、待ち時間が長かったり、で、なかなか難しい問題です。「絶対に無理をしない」「4週間ごとに蛋白除去消毒(プロージェント)」のセルフケアをオルソケラトロジーのユーザーは必ず行なってください。

リスクを図りながら、願望実現医療は進歩してゆきます。